★官能小説家・道中ヘルベチカさんによる連載がスタート!
ライタープロフィールはコチラ
★登場人物
ミカ(31)
福岡在住の専業主婦。夫とはセックスレスで、寂しい日々を埋めるため、偽名でSNSアカウントを開設する。
シンジ(31)
東京在住の自称「俳優」。SNSでミカを知り、メッセンジャーアプリを使ってバーチャルな「出逢い」を果たす。
ミカの夫(35)
サラリーマン。毎晩仕事仲間と飲んだり、友達とカラオケに行ったりで帰りが遅い。
★第1話はコチラ
★第2話はコチラ
******
「なぁ、ミカ……俺の、舐めてくれるか……」
シンジと声のセックスをするのは、何度目だろう。
シンジとコメントを交わすようになり、メッセンジャーアプリで個別でもやりとりをするようになり。
文字だけでなく、声も交わすようになった。
「ん……どうしようかな。また先日、風俗行ってきたんでしょ。病気とか、もらってきてない?」
最初は単に面白い人だと思って関わり始めたのに、声はハードボイルドな探偵ドラマの主人公が似合いそうなほどセクシーで、正直、心を射抜かれた。
彼の方もミカの声を、魔法少女系アニメの主役に似てかわいい、と言ってくれた。
自分では、子どもっぽくてコンプレックスだったのに。
「おい、現実の話を思い出すなよ……想像して。ほら、きれいなもんだろ……」
その上、声だけで男女の契りを結ぶまでに至るとは。
初めて誘われたときは、恥ずかしいし、馬鹿みたいとも思った。
実際には会いもせず、体も重ねず、会話と想像のみで交わるなんて。
そんな風俗サービスがあるのは知っているが、自分とはまったく無縁のハズだった。
「ふふ、そうだね。イメージする。誰とも交わったことないような、キレイなアレを」
けれど、声だけだからこそ、ミカの感情は余計に刺激された。
もちろんシンジの演技がいいのもあるだろう。
プロフィールにある「俳優」という職業は、嘘ではないのかもしれない。
「いや、それじゃ童貞……まぁ、いいや。童貞に教えるつもりで、優しく、くわえてみて」
夫とのセックスなんて、結婚以来、会話もない。
淡々と服を脱ぎ、黙々と肌を重ね合い、粛々と交わる、ただそれだけだ。
そんなセックスすら、長らくご無沙汰だ。
「ん、わかった……ジュッ、ジュルジュルッ……」
「う、うわ……エロい音……すごくいい……もっと聴かせて……」
ふふっ。ミカは微笑む。
リアルさを追求し、アイスキャンディをなめて音を出したのが効いているようだ。
「ジュッ、ジュルジュルッ……ジュルッ」
「あ、あああっ……気持ちいい……ミカ、すきだ……」
「おいしい……シンジの、いっぱい汁があふれてくる……ジュル……ね、キモチイイ?」
「ああ……ミカ……きもちいい……もう、いっちゃいそうだ……」
「ダメよ……まだ我慢して……ジュルッ……あと、ちょっと……」
もう少しでアイスキャンディも舐め終わるから、など現実の話はしない。
イメージこそが今は真実だ。
ミカがくわえているものはシンジの先端。
その想像を、頭から離さない。
「ミカ……どうしたらいい……?はやく教えて……これ、もう破裂しそう……」
懇願するシンジと、またつながりたい。
敏感なところで触れ合いたい。
アイスを舐め終え、残った棒はベッドの脇のゴミ箱に落とす。
「わかった……待たせてごめんね。もういいよ、シンジ……挿れて。いっしょになろ……」
自分でも声が震えているのがわかる。
本当に興奮している。
「ありがと……うれしい……ミカ、一つになるよ……」
ズプ……。
何かが、ミカの中に入ってくる。
自分の指ではない。
その形を借り、シンジ自身が、ミカの胎内を満たそうとしている。
「あ……は、はいって、くる……!」
「ミカっ……痛く、ない……?」
「だいじょう……ぶっ……あっ……きもちぃ……」
「ミカ……感じてくれてるの……うれし……ちゅっ」
「ん……シンジ……あぁっ……すきぃ……」
ミカの体を擦る。
シンジが、擦っている。
くちゅっ、くちゅっ、という音。
スマホからだけじゃない、ミカの体の中から聞こえてくる。
一人じゃない。
電波の向こうの男も一緒だ。
あらゆる行為がバーチャルでも、彼だけは現実にいる。
長い距離を隔てながらも、心でつながっている。
これは、もはやセックスなんてありふれた行為ではない。
これこそ本当の愛の営みなんじゃないか。
本気でそう錯覚する。
実際に会っていないからこそ、お互いがすべてに身をゆだねられる。
夫とのように、ただ性欲を処理するだけのように黙々とやるのではない。
つねにシンクロしている。
声と声が、心と心が共鳴しあっている。
「ミカ……やばい、もう、いきそっ……」
「シンジ……きて……」
「い、いいのか……俺、ゴム付けてない……」
「えっ……」
本当に、怯えたような声を上げてしまう。
それさえ、イメージと現実が入れ替わっている証拠だ。
「だめ……ゴムして……じゃなきゃ……妊娠しちゃうっ」
そんなわけないのに、本気で危機感を募らせる自分がいる。
「あぁっ……でも、だめだ……がまん、できない……あぁっ……イクッ、イクッ……!」
「シンジ……あっ、だめ、だめぇぇぇっ……外に、外に出してぇ……!」
「ミカ……ごめ、ん……あっ……!」
互いの言葉が途切れる。
ビクッ、ビクッ、と体の底が震える。
確かに、何かがミカの中で弾けた。
妄想なのか、現実なのか。
現実って、なんだっけ……?頭の中が白くなって、何も考えられなくなっている。
いまなら本当に、ミカの隣で横たわる彼の裸体が見える気がする。
「ごめん……中に、出しちゃった……ははっ……」
言葉は、スピーカーからではなく、本当にその幻想の唇からつむがれたように思う。
「ば、ばかぁ……」
抗議をしながら、目に本物の涙を浮かべながら。
それでも、ミカは唇を重ねる。
「「チュッ」」
音も重なる。
長く長く、二人は“抱擁”する。
スピーカーの向こうから、声は聞こえない。
ただただお互いの息づかいの音だけが、部屋に広がっている。
(第4話へつづく)
♥こちらの記事もおすすめ♥