- <前回のあらすじ>
- 超売れっ子スタイリスト・カナオ31歳。2つ年下のロケバスの哲也と関係を持って4年になる。イケメンで優しくセックスの相性も最高に合う哲也だが、超格下の哲也は、自分にはふさわしくないので、部屋に呼びつける都合のいい男でしかないが。公私共に献身的な哲也に、たまにはご褒美を、と思い、彼が作りたいと言っていたカルボナーラをおねだりし家に帰ろうとタクシーに乗った途端、“つないでおきたい男”鈴木からの誘いが。
Contents
2人の男を天秤にかけるカナオ
鈴木からの誘いのLINE。哲也と約束していたので一瞬迷ったが
答えは明確だ。
「急な打ち合わせが入った。カルボナーラはまたね♥」
いつもなら哲也へのLINEにハートマークなんかつけないのだが、今朝のいい動きのご褒美につけてやった。
「うん、でも、もう、カナオさんちだから、今日はいてもいい?」
「何時になるかわかんないけど?」
「今見たら洗濯物たまってたし、適当に掃除でもしとくね」
これだから、哲也は手放せない。
いい女を知り尽くした男からの賞賛の言葉は別格
鈴木が予約してくれた「鮨さいとう」に行った。
今日の今日でここの席がとれるなんて、さすが鈴木だ。
「来てくれて嬉しいよ。こないだ麻衣子のバースデイで久々会って、やっぱカナオちゃんキレイだなあって感動したもん」
「何言ってるんですか、モデル事務所の社長が」
「モデルはダメダメ。やつら、顔がいいだけで中身ねえから。カナオちゃんは超美人なだけじゃなく、女としてかっこいいもん」
やっぱり来てよかった。
自分がいい女であることは十分認識しているが、いつも「憧れです!」「素敵ー!」と言われるのは女ばかり。男の口から聞く賞賛はベツモノだ。それが美人を知り尽くした鈴木からのもんだとなおさらだ。今日はやっぱり寝てやってもいいかもしれない。
さいとうの後、「もうちょっと飲もうよ」とミッドタウンの鈴木の部屋に誘われた。1杯目のワインもなくならないうちに鈴木に抱き寄せられた。
「また、カナオちゃんとこうなれて嬉しいよ。さいとうにいるときから、鮨とかどうでもよくなっちゃってたんだよね」
自分を求めてくる熱を帯びた男の目を見るのがカナオは大好きだ。
目をさますと外が明るくなりはじめていた。コトが済んだらすぐに帰るつもりだったが、イッたあと、寝落ちしてしまったらしい。
2人の男と立て続けに…
部屋に戻ると、すっかり片付いていた。洗濯物もたたんであった。これで哲也が売れっ子カメラマンとかで私より稼ぐ男だったら最高なのに。
ベッドに行くとかわいい寝顔の哲也がいた。いとおしくなり、顎に触れた。哲也の無駄な肉のないシュッとした顎のラインはカナオのお気に入りの一つだ。
「おかえり、もう朝なんだ。大変だったね。疲れたでしょ」
少し寝ぼけた哲也はさらにかわいい。さっき、鈴木と寝た後でシャワーを浴びてないことが少し気になったが、哲也がいとおしくなり、そのまました。
今日は麻衣子と展示会クルーズする約束をしている。ブランドにも麻衣子を連れて行くと喜ばれるし、麻衣子にも感謝されるし、一石二鳥だ。
「麻衣子さんとカナオさん、最強コンビですね! もう超憧れです〜」とプレスアシスタントの朋美。
「ありがとう。あ、じゃあ、麻衣子と一緒に写真撮ってもらおうかな」
麻衣子と展示会の写真をアップ。、もちろん麻衣子のインスタにも私をタグ付けさせてアップ。私のインスタが今5万フォロワーいるのは、50万フォロワーいる麻衣子のインスタに度々タグ付けされているのが大きいのだ。
秋冬の新作をいくつかつけたら「これはギフトにさせてください」とプレスの紗弥加がとんできた。わかってる女はいい。今時、雑誌に載るより、麻衣子や私のインスタに載る方が売れるって、どこのプレスに行っても聞く。
男に不当に扱われた不快さは男で解消するべし
金曜日、恵理子に誘われて「CICADA」に行った。お気に入りのイザベルマランの赤いワンピースにマノロを合わせた。自分でも見惚れる美しさだ。恵理子の大学からの友達だというケンタ、その同期のコピーライターだという龍太、化粧品会社社長の新井と言うメンバーだった。そしてなぜか、女がもう一人。由梨というその女は哀れなほど不細工なうえに、イラつくくらいださい。そのくせ男に媚びまくっている。男のほうはというと、明らかに市場価値が何倍も高い私と恵理子を放置して、由梨って女と楽しそうにしている。女の価値を正しく判断できない安っぽい男たちはこれだから嫌だ。どうせ、私たちにびびっているんだろ。ひどく気分が悪いので、解散後、賞賛の言葉を浴びに哲也に会いに行くことにした。
従順な哲也がまさかの裏切り!?
哲也の神泉の1ルームのシングルベッドでやるより、自分の部屋のクイーンベッドの方がいいけど、たまには会いに行ってやろう。
ピンポーン。
チャイムを鳴らすが応答がない。さっきタクシーの中から見たときは電気がついていたはずなのに。仕方ないから電話をするが出ない。
イラッとしてドアを叩く。
「哲也、いるんでしょ、あけて」。
ドアが開いた。
「何で開けないの? もしかして女とかいちゃったりしてー。哲也に限って、んなわけないか」と笑うと、玄関に、明らかに女サイズのコンバースがあった。
「なんで、こんなんがあんの?」
黙る哲也を押しのけ、部屋に入ると、佐知子がいた。服は着ているが、部屋は明らかにコトの後の空気だ。
「なんで、カナオさん、急に。。。いつもこの部屋にきたりしないのに」
哲也が苦しそうに言葉を吐き出している。
「はあ? なんで私が責められてんの? 意味不明なんだけど」
「私、カナオさんと哲也さんが付き合ってたの、知らなくて! ごめんなさい」
佐知子に謝られて、余計にムカついた。
「別に、つきあってねえし。遊んでただけだから、お構いなく。二人お似合いじゃん、付き合えば? じゃ、私帰るわ。つか、佐知子、明日からもう来なくていいから。仕事の引き継ぎ全部、彩にしといて」。
佐知子のくたびれたコンバースの横に並んだ美しいマノロを履いて、部屋を飛び出した。
別に哲也なんか。。。そう思っているのになぜか涙が出てきた。
都合のいい男と使える女を同時に失ったカナオは
スーパーアシスタント佐知子を切ってしまったから、リースなど任せていた仕事を自分でやるしかなくなった。
「哲也、最近、ちょっと動き悪いんで、もっと使える若い子にしてください」
ドライバーはずっと哲也指名だったが、もちろん変えてもらった。私のこの電話で、哲也は会社での立場が危うくなるはず。いい気味だ。
彩は、想像以上に気が利かない子で、使えなくて、イラついた。
「つーか、ありえなくない? なんで、こんなこともわかんないの?」
撮影中、2回続けてミスをしたので、怒鳴りつけると、ふてくされた顔でぶすっとしてる。佐知子なら、半べそかいて謝るのに。そもそも、佐知子はこんな凡ミス絶対しなかったけど。
佐知子を呼び戻そうか、と一瞬頭をよぎったが、あの夜の光景がフラッシュバックしてきて、その選択はすぐに打ち消された。
哲也を失ってカナオが得たものとは
佐知子がいなくなって、哲也もいなくなって、一週間が過ぎた。
インスタで「アシスタント募集」をかけたら、20通くらいDMが来た。そう、替えなんかいくらでもいるのだ。大至急もう一人アシを雇おう。いや、佐知子の代わりが一人で務まるわけないから2人雇うか。
部屋に戻ると、ポストに封筒が入っていた。哲也からで、合鍵とともに手紙が入っていた。
最後まで優しい哲也だったが
「カナオさん、こないだはすみませんでした。いや、謝ることじゃないのかもしれません。
そもそも、カナオさんにとっては、俺と誰かがそうなっても傷つく関係ですらなかったのかもしれないから。
カナオさんにとっては、俺なんかペットくらいだったかもしれませんが、俺はこの4年間、ずっと大好きでしたし、幸せでした。
美人でスタイルがいいところはもちろん、仕事に一生懸命なところ、めちゃめちゃセクシーなところ、実は子供っぽくて可愛いところ、全部全部大好きでした。
俺がカナオさんの癒しになれれば、って思ってました。
けど、先々週の水曜日、カナオさんが朝帰ってきた日、カナオさんとしたとき、別の男とした直後だなと気づいてしまって、すげえショックでした。俺以外に男がいるかも、ってことは考えなくもなかったけど、それをリアルに体感するのはさすがにショックでした。っていうより、それを俺に悟られても平気って思ってるコトが悲しかったです。カナオさんにとって、俺はペットどころか、いてもいなくていい存在だったんだなって。
もちろん、こないだのことは許されることじゃないと思います。でも、カナオさんに誤解されたくないから言いますが、佐知子ちゃんとはあの日が最初で最後です。佐知子ちゃんとは何度飲みに行ったことがあるんけど、今までそういう関係になったコトは一回もありません。
でも、あの日、一生懸命に気持ちを伝えてくれる佐知子ちゃんを見て、自分をこんなに必要としてくれる人もいるんだなあ、とちょっと弱ってた俺は、彼女の気持ちを受け入れてしまいました。佐知子ちゃんには付き合おうと言われましたが、彼女には悪いけど、きっぱり断りました。彼女を幸せにしてあげられる男は俺じゃないって思ったんで。ま、そんなこと、興味ないですね、すみません。
4年間いろいろあったけど、楽しかったです。もう仕事でも会えないから、会うこともないかもしれないけど、カナオさんの活躍、ずっと応援してます。俺、一番のファンですから」
二人の関係は姫と召使いだったはずなのに
久しぶりに声をあげて泣いた。
哲也なんか次へのつなぎ。そう思っていたけれど、街で哲也に似ている男に会うとドキリとするたび、哲也の会社のロケバスを見かけると胸が苦しくなるたび、部屋に帰ると哲也が「こないだはごめんね」って待っているんじゃないかと期待するたび、哲也の存在が自分の中でいつのまにかとてつもなく大きくなっていたことに失ってみて気づいた。いや、本当は心のどこかで知っていたのかもしれない。でも、最初から姫と召使いとして始まった二人の関係では、そんなことを口にできるタイミングなんかなかった。
今、泣いて会いに行く? いや、そんなことは絶対にできない。出来上がってしまっている哲也との関係は今さら変わることなんかできない。でも、次、もし誰かをちゃんと好きになれたら、もう少しだけ素直になってみよう。大きな喪失感とともにカナオは思うのだった。
Written by Yoshie Watanabe